捨てる、を見直そう

捨てる、を見直そう

文:横山 雄哉

 

エコバッグが普及したのはいつだろう。

1950年代の日本ではレジ袋の代わりに風呂敷や買い物かごが使われていた。簡単なものであれば、紐で縛って持って帰ることもあった。豆腐を買うときは豆腐屋に鍋を持参した時代だ。

高度経済成長期である1970年代、原油で作られるポリエチレン製のレジ袋が普及した。丈夫で安価だからだ。また、同時期にスーパーマーケットが増加したことからレジ袋が急速に普及し、大量に利用されることとなった。レジ袋の普及によって買い物の利便性が高まったが、一方でポイ捨てなど不適切に処分されたプラスチックごみが増加してしまい、結果的に海洋汚染へと繋がってしまうことになる。プラスチックごみは自然分解されにくいことから海へ不法投棄されることもあった。海へと流れ出たプラスチックは紫外線にさらされ、やがて「マイクロプラスチック」(微小なプラスチック粒子)となる。5mm以下のプラスチックがマイクロプラスチックと定義されるようだが、1mm以下の顕微鏡で見るレベルのプラスチックも含まれているようだ。そのマイクロプラスチックを海洋生物が食べてしまい、食物連鎖によって多くの海洋生物へダメージを与えてしまう。人体にも悪影響を及ぼしていることは言うまでもないだろう。こういった環境問題が取り沙汰されるようになり、ようやく日本でもレジ袋有料化や削減に向けた取り組みが進められることとなった。

環境や生物への悪影響を及ぼしたのも問題だが、レジ袋が増えたことによって、日本人の「使い捨ての文化」に拍車をかけ、モノを大切にする価値観が失われ始めるきっかけとなったのではないかと考える。レジ袋がなかった時代のほうが、モノは大切にされていたのかもしれない。

1990年代、日本にエコバッグが登場した。エコバッグが登場してから日本に馴染み始めるのにはそれ相応に時間がかかった。レジ袋有償化が実施された2020年を皮切りに、エコバッグがようやく定着し始めた。実際、レジ袋有償化前のレジ袋辞退率は約57%で、有償化後の辞退率は約80%になったというデータもある。このレジ袋有償化がエコバッグ利用率を大きく引き上げることになった。

 

 

実はこのエコバッグはドイツがルーツとなる。ドイツでは1970年ごろからすでにエコバッグ文化が始まっていた。日本のように買い物袋は支給されず有料だったお店が多かったため、エコバッグを持っていないとそもそも買い物ができなかった。この名残からなのか、ドイツ国内のエコバッグ利用率が今でも非常に高い。また、レジ袋の年間消費量は、2000年代から90%以上削減されているとのことだ。

ドイツは環境先進国として名高く、SDGs達成度ランキングでは第4位だ。また、OECD(経済協力開発機構)の調査によるとモノのリサイクル率は65%と世界トップとなる。なぜ上位に位置しているかというと、単純に"環境に対して高い意識"を持った国民が多いからである。

なぜ国民の一人ひとりが、環境に高い意識を持っているのだろう。1970年代にドイツ国内で環境汚染が深刻化し、社会の重要課題となった歴史的な背景もあるが、「環境教育」が徹底されているからだと考える。

ドイツには「森のようちえん(Waldkindergarten)」呼ばれる幼稚園が数多く存在している。園児たちは、ほとんどの時間を屋外で過ごし、例えば森の中など、自然との関わりを通じて、環境を大切にする意識を身に付ける教育が施されている。また、学校教育に環境保護やリサイクルについての教育システムが組み込まれている。小学校でごみの分別の方法を学ぶ授業があったり、また中学校では「学校全体でエネルギー消費を減らす」「地域の清掃活動に参加する」などプロジェクト型の、より実践的な学びもあるようだ。

幼少期からの教育で、一人ひとりの環境に対する意識を変える取り組みができている。結果として、環境保護が社会の当たり前となっており、文化として根付いている。リサイクル率が世界トップなのは個人の環境へ高い意識から来ているだろう。

 

 

日本では「もったいない」という価値観が根強い一方で、先述した「使い捨て文化」も強く定着してしまっている。日本人はレジ袋にお金を支払うのがもったいないからエコバッグを活用する人が大半で、環境に配慮してレジ袋を辞退している人はほんの一握りだと感じてしまう。日本人とドイツ人との間で環境への意識の差がある気がしてならない。

都度、モノを使い捨てしてしまっては、環境への負荷が否めない。大量生産大量消費の時代から脱却し、循環型経済(サーキュラーエコノミー)が主の時代への進化が問われる。まずはできるところから。そうだ、エコバッグを活用しよう。

 

 

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